【早稲田松竹】10/3~10/9|『夏の終わり』『第七の封印』『冬の光』『秋のソナタ』
二十世紀最大の映画監督と呼ばれるイングマール・ベルイマン監督。彼の作品は宗教色が強く、難解だと言われています。確かに私たち日本人にとって、キリスト教の考えが背景にある作品は、理解することが難しいのかもしれません。ですが、彼の描く物語は宗教的な概念を越えて、私たちの日常で繰り返される普遍的な喜びや苦しみ、希望や不安を見事に描き出しているのです。
今週は4月に上映した『野いちご』『処女の泉』に続き、代表作である4作品を上映いたします。
夏の遊び
Sommarlek
(1951年 スウェーデン 90分 SD/MONO)
2015年10月3日-10月5日上映
開映時間 11:50 / 15:25 / 19:00
■監督・原案・脚本 イングマール・ベルイマン
■脚本 ヘルヴェット・グレヴェーニウス
■撮影 グンナール・フィッシェル
■音楽 エリック・ノードグレーン
■出演 マイ・ブリット・ニルソン/ビルイェル・マルムステーン/アリフ・シェリーン
★3日間上映
新聞記者ダヴィッドとの結婚をとるか、バレリーナとしての仕事をとるかの選択に迫られたバレリーナのマリーは、誰からか届けられた古い日記を読んで若かりし頃の思い出の場所を訪れる。そこはバレエ学校の生徒だった彼女が、サマースクールに向かう途中に会った学生ヘンリックとひと夏の恋に落ちた思い出のサマーハウスだった。
ともに両親のいない2人の想いはすぐに同情から恋に変わった。愛にのめり込むゆえ、ヘンリックはマリーと彼女の伯父が親密であることと彼女がバレエに打ち込み過ぎることに嫉妬心を抱き、仲たがいする。しかし、祖母の意地の悪い言葉に打ちひしがれるヘンリックをマリーが慰めたことで仲直りし、2人は前以上に深く結びつくのだった。夏も終わり、しばしの別れを惜しみ2人は密かに婚約するのだが・・・。
『夏の遊び』は今回上映する4作品の中でも一番理解しやすく共感しやすい作品で、過去の思い出を引きずって前に進めずにいる女性の物語です。ベルインマンの作品に出てくる回想シーンは若さに溢れ、美しく本当に生き生きとしていて、思い出にとらわれる彼女の気持ちが痛いほどよく分かります。「人生に救いはない。人間はただ踊るだけ。踊りもいつかは終わる。それを認めることだ。」と語りかけてくる老人の言葉を受けて、のぞき込んだ鏡の中に真実の姿をみる主人公の顔は、思い出の中の顔なのか、それとも現実の顔なのか。是非スクリーンで確かめてみてください。
第七の封印
Det sjunde inseglet
(1957年 スウェーデン 97分 SD/MONO)
2015年10月3日-10月5日上映
開映時間 10:00 / 13:35 / 17:10 / 20:45
■監督・脚本 イングマール・ベルイマン
■撮影 グンナール・フィッシェル
■編集 レンナット・ヴァレン
■音楽 エリック・ノードグレン
■出演 マックス・フォン・シドー/グンナール・ビョルンストランド/ニルス・ポッペ/ビビ・アンデショーン/ベングト・エケロート/オーケ・フリデル/インガ・ジル/グンネル・リンドブロム
★3日間上映
ペストが蔓延する中世ヨーロッパ。10年にわたる十字軍の遠征から帰途についた騎士アントーニウスと従者ヨンス。疲れ果て、浜辺で眠れぬ夜を過ごすアントーニウスの前に「死」と名乗る黒いマントの男が現れる。彼を連れて行こうとする死神に対し、チェスの勝負を挑むアントーニウス。「対局の間死はお預けだ。私が勝てば解放してくれ」。興味を示した死神は条件を受け入れ、チェスの盤を挟んで戦いが始まる。
夜が明け、故郷への道を急ぐアントーニウスとヨンス。道の傍らには馬車を止めて休んでいる旅芸人の一座がいた。役者のヨフは、目の前を通り過ぎる聖母マリアとイエスの姿を見る。急いで妻のミアを起こすが、彼女は幻だと笑って信用しない。 教会を訪れたアントーニウスは、告解室に跪き、神への疑念と苦悩を語るが、聖職者のふりをした死神に騙されてチェスの作戦を教えてしまい――。
『第七の封印』を観るとある絵画を思い出します。それは、エリー・ドローネーの「ローマのペスト」という作品で、ペストの流行で遺体が積み重なり、家の扉には死神を従えた天使が立っていて、杖でドアをノックした回数だけ死人が出るという寓話を基に描かれたものです。この作品に見られる「神は死と隣り合わせに存在する」という感覚を、映画の中にも感じてしまいます。
『第七の封印』の主人公の騎士は「神はどこにいるのか」という問いを常に心に抱えています。十字軍での無意味な殺戮、伝染病に侵され死んでいく罪のない人々を目の当たりにした彼は、この状況は神が望んだものなのか? 与えられた試練なのか? と苦しみます。騎士は最後に、自分が生きながらえた意味を理解する瞬間を与えられます。それは果たして幸福か不幸か、有名な"死の舞踏"のシーンと共に、様々な「生と死」への問いを本作は投げかけてくるのです。
冬の光
Nattvardsgästerna
(1963年 スウェーデン 82分 )
2015年10月6日-10月9日上映
開映時間 11:45 / 15:05 / 18:25
■監督・脚本 イングマール・ベルイマン
■撮影 スヴェン・ニクヴィスト
■音楽 ヨハン・セバスチャン・バッハ
■出演 グンナール・ビョルンストランド/マックス・フォン・シドー/イングリッド・チューリン/グンネル・リンドブロム/アラン・エドワール
★4日間上映
スウェーデンの小さな町の冬の日曜日の朝。古めかしい教会の礼拝堂で、牧師トマスは会衆を前にミサを行っている。無事ミサを終えた彼のもとに、漁師の夫妻が相談に乗ってほしいと訪ねてきた。妻のカリンは、夫のヨナスが中国も原子爆弾を持つというニュースを新聞で読んで以来口をつぐみ続けるので、魂の安らぎを与えてやってほしいという。しかし牧師自身も最愛の妻に先立たれてから失意のどん底にあり漁師の悩みを解決してやれる状態ではなかった。
トマスには妻亡きあとの恋人マルタがいたが、彼のことをあれこれ気遣う心づかいに、トマスは辟易していた。再び訪ねて来たヨナスに、牧師としての自信が揺らいでいるトマスは常識以上のことは何もいえなかった。ヨナスはそれから間もなくピストル自殺で命を絶ってしまう・・・。
『冬の光』は若く優秀な牧師が、最愛の人を失ったことで、生きる希望や信仰心が揺らいでしまう物語です。この主人公を支える女性教師が現れるのですが、その女性がいることによってまた主人公の人間としての弱さが露呈していきます。信仰し、教えを人々に伝えるはずの牧師がそれを見失った時、彼はどう生きていくのか。葛藤し、苦悩に駆られながらも、後戻りすることが出来ない人間の虚しさを徹底的に描いた作品です。『処女の泉』、『秋のソナタ』でも撮影を担当したスヴェン・ニクヴィストの力強いカメラワークも必見です。
秋のソナタ
Höstsonaten
(1978年 スウェーデン 92分 )
2015年10月6日-10月9日上映
開映時間 10:00 / 13:20 / 16:40 / 20:00
■監督・脚本 イングマール・ベルイマン
■撮影 スヴェン・ニクヴィスト
■編集 シルヴィア・イングマーシュドッテル
■出演 イングリッド・バーグマン/リヴ・ウルマン/レーナ・ニイマン/ハールヴァル・ビョルク/エルランド・ヨセフソン/グンナー・ビョーンストランド/リン・ウルマン
■オフィシャルサイト http://www.bergman.jp/sonata/
★4日間上映
ノルウェー北部の田園地方。この土地の牧師館で静かに暮らす、ヴィクトルとエヴァ夫妻。 エヴァは7年も会わなかった母シャルロッテを、牧師館に招くことを思いつく。国際的なピアニストとしてきらびやかな人生を送ってきた母が、つい最近長年連れ添った恋人を亡くしたことを、風のうわさで聞いたばかりであった。
シャルロッテは相変わらず若々しく華やいだ雰囲気で、自ら豪華な車を運転してやってきた。2人は抱擁をかわし、お互いの近況を話し合う。エヴァへの愛情を示していたシャルロッテだが、もうひとりの娘であり、脳性麻痺を患うヘレナが一緒に暮らしていると聞き、一転して苛立ちをあらわにする。
エヴァとシャルロッテは、お互いの感情が7年前といささかも変わっていないことに、すでに気づいていた。夕食後、母の誘いに応じてショパンのプレリュードを弾くエヴァ。エヴァの弾き方を厳しく批評し、解釈を語って聞かせるシャルロッテの横顔を、エヴァは複雑な表情で見つめるのだった――。
ベルイマンと主演のイングリッド・バーグマンはスウェーデンの出身で、「Bergman」という同じ苗字同士で何か作ろうと言ったことから始まったのが『秋のソナタ』です。娘の母親に対する想いは、こんなにも普遍的なのでしょうか。「幼い私には到底理解できない難解な本を渡して、内容について語ろうと言ってきた。貴女の期待に応えたかった。」という台詞に涙が止まらなかった私は、自分と母親の中にも少なからず不和があるのだということを感じずにはいられませんでした。バーグマンとリヴ・ウルマンの演技による対立は圧倒的で、激しく、忘れることはできません。母娘の確執を見事に描いている傑作です。
人は人と出会うことによって人生を変化させているように思います。それは『夏の遊び』の恋人であり、『第七の封印』の仲間たちであり、また『冬の光』の妻や女性教師であり、『秋のソナタ』の母親と娘の再会であったりします。中世のヨーロッパであろうが私たちが生きる現代であろうが、人が生き死ぬ限り、誰かや何かとの出会いや別れでしか気付くことが出来ないものがあると、一見難解に見える美しい映像を通して、ベルイマンは教えてくれるのです。
出典:早稲田松竹映画劇場(スタンド)