「MBAは起業活動に貢献するのか?」講演レポート ~前編~
第1回の岡本匡弘さんの講演を2回に分けてレポートしていきます。
アンケート調査の結果、MBAが意外にも起業に貢献していることがわかってきました。
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なぜ起業家の研究なのか?
2018年3⽉にWBSの根来ゼミを卒業したばかりの岡本と申します。
私自身、規模は小さいながら起業家として、2つの会社(COCOLONE、COLOMODE)を経営しています。WBSへは会社経営をしながら、2年間通学し、起業家についての研究をしてきました。
世界的にみて日本は起業家が少ないといわれていますが、実際の数字を見てみましょう。
世 界各国の起業活動率の調査でGEM(Global Entrepreneurship Monitor)調査というのがあります。全70カ国が調査対象、68カ国からの回答が集計されていますが、⽇本はわずか3.7%で66位です。もう、ほ んとビリの⽅ですね。それに対して米国は12.7%、中国は14%、ヨーロッパは10%前後の起業活動率となっています。
また別な調査で、日本の中小企業白書によると、日本の開業率は5.2%という数字があります。
これは雇用保険事業年報を元に、開業廃業率から算出した数字です。
それに対して、中小企業白書では海外と比較しているのですが、イギリスは14.3%、フランス12.4%、欧州は概ね10%以上です。アメリカでも10%前後という数字になっています。
つまり、日本の起業率は欧米と比較して、確実に非常に低い数字になっているわけです。
もちろんアジアと比較しても同様で、アジア各国はさらに起業が活性化してきているのが現状です。
起業の3つの課題にビジネススクールは解をあたえるのか?
日本の起業環境の課題として、中小企業白書では、「⼈材確保」、「資⾦調達」、「販路獲得」という3つの項目が挙げられています。
これら3つの「⼈材確保」、「資⾦調達」、「販路獲得」の課題が、ビジネススクールで解決されているのか、それとも解決されていないのかを調査したのが、今回の研究のテーマです。
「人材確保」
起業家にとっての⼈材確保の課題では、⽇本ならではの新卒一括採用や終身雇用をはじめとする採用や雇⽤の環境というのがあります。
やはり⼤企業に優秀な⼈材が集中していると言われています。また、日本は特に一度経営者として失敗すると、再チャレンジしにくい社会環境があると言えます。
「資金調達」
⽇本における起業時の資⾦調達の市場規模というのは、欧⽶と⽐較すると圧倒的に⼩さいです。
近年、少しずつ資金調達の環境は変わってきていますが、欧⽶には起業家と投資家のネットワークがあり、エンジェル投資家と出会ったり、⾒つけたりできる環境や市場があります。
その点、⽇本はまだまだ活性化が遅れていると言えます。また、デットでの資金調達にいたっては、創業資⾦融資の獲得というのは、かなり難しい課題です。
「販路獲得」
⽇本では、⼤企業とベンチャー企業との直接取引というのは、やはりそんなに簡単なことではないです。
卸や代理店などの中間業者が取引に携わる仲介制度は、⽇本独特です。
こうした課題があるなかで、
「WBSは起業プロセスに貢献しているのか?
もし、貢献している場合、具体的にはどんな部分が貢献しているのか」を調査しました。調査の対象は早稲田ビジネスクール(WBS)出身の起業家たちです。
調査概要
調査対象
①起業後にWBSに入学した起業家
②WBS入学後、在学中に起業した起業家
③WBSにてMBAを取得し、卒業後に起業した起業家
調査期間 2017年10月24日~11月28日 (回答者:41人)
調査方法 インターネットによるアンケート調査とインタビュー調査
調査結果 早稲田大学広報、早稲田大学ビジネススクールより公開
https://kyodonewsprwire.jp/release/201804183078
https://www.waseda.jp/fcom/wbs/news/5369
研究ではアンケート調査とインタビュー調査を行っていますが、本講演では、アンケート調査を中心にご紹介します。
アンケートは計41名、
①起業後にWBSに入学した人13名、
②、③WBSに入学して在学中、もしくは卒業後に起業した人28名から回答をいただきました。
WBS出身起業家の特徴:30歳代が多い
調査対象者となるWBS出身の起業家へは、伝手をたどって探して依頼しました。
調査対象者の特徴は次のとおり。
・年齢は30代半ばが多い。起業時の年齢が30代だった人は56.1%
・1年以上の海外留学経験者は22%
・2回以上の起業経験者は36%
・起業してからの年数(調査時)は2年以内の人が多い
・他社の役員も務めている人が約60%
気になる特徴のひとつは、1年以上の海外留学経験者が22%もいること。
この22%というのは、かなり高い数字だと思います。
文科省の調査では日本人の留学率は10%ぐらいです。ただし、この10%は、1か月程度の短期留学も含めた数字です。そうすると、1年以上の留学経験者が22%もいるのは、かなり高い割合であると言えます。
また起業して2年以内の、起業後間もない⽅が多かったのは、この調査を依頼するために直近の卒業生から伝⼿をたどっていったことが原因かと思われます。
次に起業時の年齢についてですが、中⼩企業⽩書によると⽇本の起業平均年齢は49.7歳と高めの年齢となっています。
リタイア後に起業される⽅が起業年齢のひとつの山を作っているので、このような数字が出ていると思われます。
それと比較して、WBS出⾝起業家は起業時の平均年齢が35歳となります。つまり約15歳も若く、これから活きのいい会社として成長していく可能性を秘めた起業家を生み出していると言えます。
アンケートから見えたビジネススクールの貢献
本研究では、起業のフェーズごとにアンケートをしています。
・起業の意志や時期
・アイデアの着想
・共同創業者や創業メンバー
・資⾦調達
・販路獲得
など、全19項目の質問について回答をいだきました。
起業の決意やビジネスアイディアは大学から得た?
Q1:起業決意の時期
アンケート最初の質問は「具体的に起業を決意したのがいつなのか?」
入学後に起業した方の40%が在学中に起業を決意したと答えています。
WBSに来たこと自体が、起業にきっかけを与えているという結果です。
私自身はこれは意外な結果だなと感じました。
Q2:起業の時期
そして、実際に起業したタイミングですが、⼊学後に起業した28⼈のうち
86%にあたる24⼈が、在学中または卒業1年以内に起業しています。
ビジネススクールに関わりなく、もともと持っていたマインドなのかもしれないですが、大学院に在学中でも思い立ったら起業してしまうところに起業家らしい⾏動⼒が表れていると思います。
Q3:ビジネススクール入学の動機
次に、ビジネスクールの⼊学理由で重視したことについて3つ複数回答で聞いています。
「経営を学ぶこと」が第⼀動機なのは、もちろん予想通りなのですが、その次に重視していることは「⼈脈形成」と「起業準備」です。
もともと起業を想定していて、起業準備と⼈脈づくりが⼊学動機になっています。
つまり最初から起業することを視野に入れた上で、入学してきているということです。
Q4:起業の着想
4つ目の質問は「起業アイディアの着想はどこから得ましたか。」
どこからビジネスアイディアを得たのかという質問ですけども、こちらがまた意外な結果でした。
私自身、学校に起業するためのアイディアなんてあるものか?と思っていました。
実際にアンケートとってみますと「実務経験」はもちろん多くて43%です。
けれども21%がWBSの人脈…先生や学生同士、ゲストで来られた先生だったりとか、講義そのものとか、あわせると21%が講義や人脈からビジネスの着想を得ている。
とても意外な結果だと個人的には思っております。
Q5:ビジネスモデル化のカギ
5つ⽬の質問は、「アイデアをどういうふうにビジネスモデル化していったのか」についてうかがっています。これも重要だと思う順に3つ回答をいただきました。
「実務の経験」は1位ですが、2位は「学友からのアドバイス」、次に「先生からのアドバイス」です。
やはり早稲田の場合は、実務家出身の方からアカデミックな方まで豊富な教授陣がいるため、その先生方からビジネスモデル化していく上でのアドバイスをもらっているようです。
MBAの⼈脈や学びが、起業アイデアをビジネスモデル化していく過程で、
実際に有効に活⽤されているという結果が出ました。
特に⼊学後に起業した28人の方については、86%がこのMBAに関わる項⽬を選択しています。
創業時「人材確保」で生きる学内ネットワーク
つづいて、創業時の形態や創業メンバー数について聞いています。
Q6:起業時の形態
中小企業白書のデータにもありますが、起業するときに、最初は個⼈事業主で始める⽅が実際には多いと思います。
しかしWBS出⾝起業家は86%の⽅が法⼈格で起業しています。
これは一つの特徴だと思います。
中小企業白書のデータでは、事業を法人で始めるのは約24%、個人事業主で始めている方々が74%となっていますので、WBS出⾝起業家の場合は、この数字が逆転しています。
法人格でスタートするところが、ビジネススクールらしいとも言えますし、最初から事業をスケール化していこうと考えているとも想定されます。
Q7:創業メンバー数
創業メンバー数についても、69%が2名以上の複数のメンバーで創業していました。これは起業時の形態と同様に、将来的な事業拡大を考えた上で起業をしているのではないかと思われます。
Q8:創業メンバーの獲得
では、その「創業メンバーをどのように得たのか」というのが次の質問です。
約半数の47%が WBS 関係者の中から創業メンバーを見つけています。
WBSの同期や、ゼミ内の仲間から⾒つけている⽅ほか、先⽣から紹介を受けているというような⽅たちもいらっしゃいました。
いずれにしても、WBSの学生や先生のネットワークの力で、創業メンバーを見つけているということになります。
<「創業資金」「販路獲得」に関する質問と、起業家インタビューは次回ブログに続きます>