漂泊の民ジプシーがたどる夢と幻の日々
ジプシーたちが生活する、旧ユーゴスラヴィアのと ある小さな村。粗末な祖母の家で足の悪い妹や放蕩者の叔父と暮らすペルハンは、不思議な魔法とジプシーの誇りを祖母から授かり受けた心優しい少年だ。ある 日、悪事をして稼ぐ村一番の金持ち・アーメドを頭とするジーダ兄弟が村に帰ってきた。祖母の魔術がアーメドの息子を急病から救ったことで、彼はペルハンの 妹の足を治すことを約束する。しかし、病院に妹を入れるとアーメドは無理やりペルハンをイタリアへ連れていき、ジプシーの“生活の糧"のひとつである盗み や物乞いを教え込む。次第に悪に手を染めるぺルハンだったが―
鬼才クストリッツァが流麗に描く一大叙事詩
ヨー ロッパ中を放浪したジプシーの日常生活をひとりの青年の成長記として描いた本作は、いかなる束縛からも自由で、本能のままに生きる人物像を好んで描く監督 の作家的傾向が窺い知れる。ジプシーは、600年ほど前に東方からヨーロッパにたどり着いたと言われる民族。彼らは自らを“ロマ”(人間を意味する)と名 乗り、ロマ語を使い何百年ものあいだ、一般社会とは一線を画し独自の文化を築いている。
クストリッツァ監督はジプシーの新聞記事を読み映画製作を思い立ち、脚本家のゴルダン・ミヒッチと共にジプシーのキャンプに住み込み取材を重ね、9か月に わたる撮影期間を経て完成させた。キャストの大半は演技経験のない本物のジプシーたちを起用。セリフの90%はロマ語である。
管楽器主体によるマケドニアのジプシー音楽やセルビア正教の聖歌、イタリアの伝統音楽を巧みにミックスした音楽は、旧ユーゴの人気ロックバンド“ホワイト・ボタン”のゴラン・ブレコヴィッチが担当している。