『ハウス・ジャック・ビルド』 The House That Built
THE MEIGAZA Vol.39
今回の作品は、マット・ディロン主演、第71回「カンヌ国際映画祭」でプレミア上映された、奇才ラース・フォン・トリアー監督のサイコホラー。カンヌでも物議を醸した殺人鬼ジャックの人間の理性と狂気は、きっとあなたの感性を鋭く刺激するはず。
©2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31, ZENTROPA SWEDEN, SLOT MACHINE, ZENTROPA FRANCE, ZENTROPA KÖLN
1970年代の米ワシントン州。強迫神経症を抱えるジャックは建築家になる夢を見るが、なかなか理想の家を建てることができない建築技師だ。ある日彼が仕事へ向かっていると、車が故障して立往生する女性を見かける。「ジャッキが壊れちゃって、貸してくれない?」近くの工場へ向かい壊れたジャッキの修理を終えるが、再びジャッキは壊れてしまう。悪態をつく女性に堪えかねたジャックは初めての殺人を犯す。
「ジャッキが壊れる」は、奇才ラース・フォン・トリアー監督が連続殺人鬼のジャックの物語を語り始めるシークエンスに寄せた彼流のジョーク。そもそもジャックがヒトラーを信奉しているという設定も、2011年のカンヌでヒトラーを擁護するジョークで物議を醸し、同映画祭を追放された彼のセルフパロディの要素が強い。カンヌに復帰した本作も100人もの観客が途中退出する一方で、5分間ものスタンディングオベーションで迎えられ賛否を分けた。人を食ったような毒の強いジョーク(隠喩)と、綿密な調査をもとに殺人鬼の内面に迫ったシリアスな描写は、まさに奇才の名に相応しい絶妙なバランスに仕上がっている。理想の建築を志向するジャックが殺人を犯すことで自らの創作意欲を満たしていくことの業の深さ、人間のもつ哀れをこんな形で描いた作品は他にありません。一見の価値あり!
1月25日(土)~1月31日(金) 「アス」と2本立て上映
ハウス・ジャック・ビルト The House That Jack Built
(2018年 デンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン 152分 R18+)
監督・原案・脚本 ラース・フォン・トリアー
出演 マット・ディロン/ブルーノ・ガンツ ほか