『ジャン・クリストフ』著者:ロマン・ロラン 訳:新庄嘉章 新潮社刊
MY本 Vol.29
原作は1903年から1920年にかけて書かれたフランス文学で、ベートーヴェンをモデルに音楽家の波瀾万丈な一生を追った長編小説。金朝さんはこの大作の子ども向けの本と小学生のころに出会い、その後ずっと気になっていたことで本編を購入し、高校時代、大学時代と2度読み返したという。
金朝さんは当時、物語に登場する不器用な男たちに共感し、人間らしさや愚直な生き方の細かいエピソードや描写に自分を重ね、「この世界にいるのが、心地よかったんです」と話す。主人公のクリストフは、叔父に「評価されたい、褒められたいという気持ちで音楽を作ってないか?曲というのは魂の叫びでなくてはならない」と問われるシーンがある。そして主人公は名声のために曲づくりをするのではなく「神と自然に耳を傾け、それに和合した生活から生まれる音楽こそ、人々の心に沁みる真の音楽である」ということを叔父から学ぶ。その後、青年時代の金朝さんは友人たちの勧めもあり、主人公クリストフのように当時観客として好きだった落語の世界で生きることを決意し、愚直に飛び込んでいく。
落語について語る金朝さんは、伝統芸能への誇りと飽くなき探求心が感じられた。本著のクリストフはもちろん小説の登場人物に過ぎない。しかし、きっと彼を通して個々の生き方を見つめなおすきっかけを多くの人に与えてくれるだろう。
ドイツ・ライン河に生まれた音楽家の波瀾万丈な生涯を描く、ロマン・ロラン作の長編大河小説。
落語家
三遊亭金朝さん
1998年に三遊亭小金馬に入門。2013年に4代目三遊亭金朝を襲名し、真打昇進。落語協会定席の寄席のほか、地元の高田馬場や早稲田を拠点に、都内各地や出身地成田市での独演会活動にも精力的に取り組んでいる。
★落語協会ホームページ
http://rakugo-kyokai.jp/