『ノスタルジア』 NOSTALGHIA
THE MEIGAZA Vol.38
今回の作品は、1983年「カンヌ国際映画祭」創造大賞、国際批評家連盟賞などを受賞。イタリアを舞台にした幻想的な画づくりで観客を魅了する芸術的な作品。2本立ての「アンドレイ・タルコフスキー監督特集」をお楽しみください。
「ノスタルジア」©1983 RAI-Radiotelevisione ltaliana
「サクリファイス」©1986 SVENSKA FILMINSTITUTET
イタリアのトスカーナ地方に降り立つ主人公のゴルチャコフ。「モスクワを思い出すでしょ。光線がよく似ている」と語りかける通訳の女性に、彼はため息交じりに「美しい景色など見飽きている。結局は自己満足にすぎない。うんざりだ」と応える。彼らは故国に帰れば奴隷となると知りつつ帰国し自殺した18世紀のロシアの音楽家、パヴェル・サスノフスキーの足跡を辿って旅をしてきたが、旅もすでに終わりが近かった。
芸術家の自律性と表現の自由を求めソ連から亡命した天才映画作家タルコフスキーの長編6作品目にしてソ連外で初めて製作された「ノスタルジア」。朝もやの中、ゆるやかな斜面を降りていく三人の女と少年。つき従う黒い犬、草地の白い馬。ゆっくりと画面の手前から奥へと流れていく霧。過去なのか、夢なのか。この映画は冒頭のロングショット一つだけで、誰しもの心の奥にある原風景を呼び起こす。物語よりも、映画の中の時間や空間の変容によって観客の想像力の中に説話的な力を呼び起こそうとした彼の映画は、水や光、闇や火のモチーフの力を最大限に展開し、本作でその表現を詩的宇宙とも言える次元まで高めた。絶望感に覆われ、神をも信じることのできない登場人物たちが、魂の救済を求めて祈る姿は、圧倒的な美しさで観客の心を震わせます。唯一無二の映画芸術と言える大傑作。ぜひお見逃しなく。
10月26日(土)~11月1日(金) A・タルコフスキー監督特集 「サクリファイス」と二本立て上映
『ノスタルジア』( 1983年 イタリア 126分)
監督 アンドレイ・タルコフスキー
出演 オレーグ・ヤンコフスキー/エルランド・ヨセフソン/ドミツィアナ・ジョルダーノ
1983年度カンヌ国際映画祭 創造大賞/国際映画批評家賞/エキュメニック賞 受賞
『サクリファイス』( 1986年 スウェーデン・フランス 149分)
監督 アンドレイ・タルコフスキー
出演 エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/アラン・エドワール
1986年度カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ/国際批評家連盟賞/エキュメニック賞/芸術特別貢献賞 受賞