『グランド・ブダペスト・ホテル』

THE MEIGAZA Vol.18

©2013 Twentieth Century Fox

今回の作品は、2014年ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞したウェス・アンダーソン監督の最新作。スリリングな展開の中に、独特なユーモアで至福感を与えてくれる傑作。豪華スター競演で贈る極上のミステリー・コメディは見逃せない！

第二次世界大戦を境に地図上から消滅した旧ズブロフスカ共和国。この国のことを知るには、国民的大作家の著作「グランド・ブダペスト・ホテル」を読む以外に方法は残されていない…大戦前、温泉保養地に優雅に佇むヨーロッパ上流貴族御用達のこのホテルに、“伝説のコンシェルジュ”、ムッシュ・グスタヴ・Hがいた。ある日、長年のお得意様の伯爵夫人が亡くなり、遺産の名画の相続人に指名されたグスタヴは、遺族から遺産目当ての殺人容疑をかけられてしまう。

ヨーロッパが開戦へと歩みを進める中、大陸を跨ぐ逃避行の末に解けていく事件の謎。反戦のテーマとヨーロッパ文化の美しさが、洗練された美術と豊かな知性によって支えられた幾通りもの脈流となり、軽快な画面演出が押し寄せる波のように一時も楽しさを離さない。しかも監督は、戦争と共に失われてゆく壮麗なヨーロッパの文明と同様に、その中心で華麗に振る舞うグスタヴに往年のコメディ・スターのような物悲しささえ重ねてみせる。「それは彼の時代にもすでに幻想だったのかもしれない。それでも彼はその幻想を巧みに維持してみせた」いつも作品の世界に住んでみたいと思わせてくれるウェス・アンダーソンが新たに創りだした、まぼろしのヨーロッパの灯り。生涯必見の一作です。