【早稲田松竹】2/6(土)〜2/12(金)|『EDEN/エデン』『 ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
今回上映する『EDEN/エデン』と『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は、どちらも音楽を巡る青春ドラマです。印象は全く別物ながら、どちらも監督の個人的な記憶から出発したワン&オンリーな魅力に溢れています。
『グッバイ・ファーストラブ』など、思春期の少女の成長を丁寧に描くことに定評があるミア・ハンセン=ラヴ監督。最新作『EDEN/エデン』はガラリと趣が変わり、90年代初頭から2010年代までのフレンチクラブシーンが舞台の群像劇です。
主人公のポールのモデルは彼女の兄・スヴェン・ハンセン=ラヴ。彼はフレンチ・タッチ(当時起こったムーブメントと音楽の総称)黎明期に活躍したDJであり、ミア自身がその時代を肌で感じていたとあって、描かれるエピソードの多くは実際にあった出来事だといいます。音楽やダンスの変遷は言うに及ばず、録音機材などのディテールによって時代の移り変わりを語るきめ細かい演出が冴えわたります。リアルに語られる一時代のキラキラとした熱狂の渦は、当時を知らない観客も力強く巻き込んでいきます。
しかし、陶酔の時も長くはつづきません。映画が進むにつれて、ポールを巡る環境の残酷なまでの変化もまた赤裸々に描き出されていきます。とはいえ、これは決して栄光と挫折の悲劇ではありません。
ミア・ハンセン=ラヴが描き出す人生のありかたは、夢を持つこと、或いはそれが成就することを一面的に称揚する類の、一般的なエンターテインメントからはこぼれ落ちてしまうものです。不本意な運命を受け入れながらも、そこから新たに生きなおせる人生の豊かさを静かに肯定する、彼女の聡明な眼差しが本作に一層特別な輝きを与えています(終盤に引用されるアメリカの詩人ロバート・クリーリーの詩もとても印象的です)。ミア・ハンセン=ラヴから兄に送られた親密なエールであり、同時に私たちの人生をも照らし出す普遍的な深みも湛えた本作。必見です。
一方、人気バンド「ベル・アンド・セバスチャン」のフロントマン、スチュアート・マードックが構想から10年の歳月をかけて完成させた『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は、精神の病から入院していた少女イヴが、仲間と共にバンドを結成し、ライヴ開催に向けて奮闘する様を描いたポップ・ミュージカルです。
ドラマの合間に突如として歌って踊り出す、いわゆるミュージカルを苦手に思う人も多いかもしれません。しかし、本作のミュージカルシーンはとても親しみやすく、こちらの心にすっと寄り添ってくれるようなやわらかい感触があります。スチュアート・マードック自身が手がけた曲の素晴らしさもさることながら、キュートなファッションセンスや主人公イヴを演じるエミリー・ブラウニングらの歌唱から生まれる、良い意味でのアマチュアリズムが、プロの映画人には絶対につくれない味を醸し出しているからです。
さわやかで楽しいハンドメイド感が全篇に満ちた本作ですが、音楽を通して人生を切り開くイヴの生き様には、真に迫った力強さが張っています。それは、マードック自身が慢性疲労症候群による長い闘病生活を経て「ベル・アンド・セバスチャン」を結成したという経験があるゆえでしょう。音楽に実際に救われたマードック自身の、心からの音楽への感謝と信頼の気持ちが、孤独な闘病生活を乗り越えていくイヴに託され、画面から溢れるのが何とも感動的です。
(早稲田松竹映画劇場 ルー)
EDEN/エデン
EDEN
(2014年 フランス 131分 シネスコ)
2016年2月6日から2月12日まで上映
開映時間 12:45 / 17:15
■監督・脚本 ミア・ハンセン=ラヴ
■製作 シャルル・ジリベール
■脚本 スヴェン・ハンセン=ラヴ
■撮影 ドニ・ルノワール
■美術 アンナ・ファルゲール
■編集 マリオン・モニエ
■出演 フェリックス・ド・ジヴリ/ポーリーヌ・エチエンヌ/ ヴァンサン・マケーニュ/ロマン・コリンカ/グレタ・ガーウィグ/ローラ・スメット/ゴルシフテ・ファラハニ/アルシネ・カンジアン
■オフィシャルサイト http://eden-movie.jp/
■パンフレット(800円)、トートバッグ(1200円/数量限定)販売あり
大学生のポール は音楽、とりわけガラージにはまっている。親友とDJデュオ“Cheers”を結成するやいなやパリの熱いクラブシーンで人気となり、あっという間に成功の階段を駆け上がってゆく。エレクトロなビートに満ちたパラダイスで、仲間とはしゃぐ楽しい時間。しかしそんな“甘い生活”は少しずつポールの人生を狂わせ始める。まわりが少しずつ大人になってゆく中、酒とドラッグに溺れ、借金をくり返し、恋人との関係も破綻してばかり。やがてポールの生み出す音楽も少しずつ最先端のクラブシーンから遠ざかってゆく――。
監督は『あの夏の子供たち』や『グッバイ・ファーストラブ』などが高い評価をうけ、Variety誌で「世界で注目すべき映画監督ベストテン」に選出された気鋭、ミア・ハンセン=ラヴ。主人公のポールは、20年間DJとして活躍し、現在は作家として本作の脚本にも参加している実兄スヴェン・ハンセン=ラヴをモデルにしている。2人のコラボレーションにより、当時のパリの熱気をそのまま切り取ったようなクラブシーンが再現された。
誰もが経験するであろう若き日々の夢と挫折――。本作は、レイヴやエレクトロ・ミュージックの誕生から、ダフト・パンクやカシアスらが代表する“フレンチタッチ・ジェネレーション”の軌跡を背景に、情熱に突き動かされる無軌道ゆえの青春の煌めきと、夢から醒めたように終わりを告げる青春の残滓のほろ苦さが、リアルに焼き付けられている。
ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール
GOD HELP THE GIRL
(2014年 イギリス 111分 ビスタ)
2016年2月6日から2月12日まで上映
開映時間 10:40 / 15:10 / 19:40 ■監督・脚本 スチュアート・マードック
■製作 バリー・メンデル
■撮影 ジャイルズ・ナットジェンズ
■出演 エミリー・ブラウニング/オリー・アレクサンデル/ハンナ・マリー/ピエール・ブーランジェ
■2014年ベルリン国際映画祭正式出品/サンダンス映画祭審査員特別賞受賞
■オフィシャルサイト http://godhelpthegirl.club/
■パンフレット(700円)、豪華版ブルーレイ(7776円/先行販売特典付き)販売あり
スコットランド・グラスゴーのとある街。入院中の少女イヴは1人ピアノに向かい曲を書いていた。ある日、彼女は病院を抜け出し向かったライブハウスで、アコースティック・ギターを抱えたジェームズに出会い、さらに友人のキャシーを紹介された。魅力的なのにどこか孤独を感じさせるイヴ。密かにイヴに恋をする理屈屋のジェームズ。天真爛漫な年下のキャシー。その夏、3人の友情と恋が、音楽にのって始まった――。
スコットランドを拠点に世界的な人気を誇るバンド、ベル・アンド・セバスチャンのフロントマン、スチュアート・マードックが10年をかけて完成させた本作。ミュージシャンであるスチュアートは、脚本と同時進行でサントラを作成した。先に音楽を作ることでイメージを膨らませた世界観に、こだわりの16mm撮影で撮られた美しく繊細な映像が加えられ、スチュアートの感性と才能が100%表現されている。
ヌーヴェルヴァーグを思わせるセンスの良い映像の数々と、50~70年代風の衣装も見どころ。スコットランド・グラスゴーを舞台に、20代の若者たちの恋と痛みを軽やかな音楽にのせて描く、愛おしくて踊りだしたくなる極上のポップ・ミュージカルが誕生した!
出典:早稲田松竹映画劇場