女王蜂の新たな旅立ちが…高田馬場で起きたミツバチの悲劇から、都会に潜む「自然との共存」を、ちょっと大げさに考えてみる
2016年5月11日の夜のテレビニュースで、
久しぶりに高田馬場が話題になりました!
11日、みずほ銀行の宝くじ売り場周辺でミツバチが大量にいるのが見つかり、消防が駆除に当たったというもの。
http://news.livedoor.com/article/detail/11510075/
「客や通行人などにけがはありませんでした・・・」ということで、
「無事でよかったね。突然ハチが大量に現れて、巣でも作られて人を刺さずに済んだんだから…」と言うことで、「大事に発展せずに済んだというニュース」と片付けられがちな話題でした。
↑その現場はこちら。地元の方ならすぐにわかる。あの宝くじ売り場
■なぜ突然、ババにハチが??
ここで疑問に思うのは「なぜ突然、高田馬場のビル群にハチが!?」ということ。
そこで現場に向かって調べてみると、当時営業していた宝くじ売り場の方からお話を聞くことができました。
「ここに前からハチの巣があったわけではなく、突然ハチが集まってきて…売り場の中まで入ってきて大変でした」
あの時、宝くじ売り場の方もご苦労されておられたんですね。
「駆除された方がいうには、どうやらミツバチたちは引っ越しのために移動をするらしく、それでたまたまここにやってきたみたいです」
……とのこと。
ハチの引っ越し?
ハチの生態について知識のないジモア編集部は、これを機にハチの生態について調べてみました。
■ハチの世界の掟。分蜂と新たな旅立ち
ハチたちの引っ越し。これを分蜂(ぶんぽう)と呼ぶそうです。
女王蜂の老化・病気・産卵能力低下等が主な要因で発生する事象で、
分蜂するには、その巣が事前に十分な蜜が貯蓄され、卵を産むスペースが無くなり手狭になった段階で、 現女王蜂の役割に一区切りがつき、新女王が生まれる直前、風の少ない温かい晴れた日に、お伴と共に巣を離れるそうです。
1つの巣で女王蜂は一匹しか存在できないらしく、古い女王蜂(母)はその巣を追い出され、若い新しい女王蜂(娘)にとって代わられるのです。
人間の世界だと、「子が成長して親元を巣立っていく」というのが一般かと思いますが、蜂の世界では「厳しい自然を生き抜くため、産卵能力が旺盛な方が残り、親は出ていく」んですね。
厳しい自然界の掟です。
しかし、その際に財産分与はしっかりされます。
出ていくハチたちは今まで貯蓄した蜜をたっぷりと体に蓄えることが許され、この蓄えられた蜜で新しい新天地の巣が出来るまでの当座のしのぎとします。
無下に追い出される訳ではなく、しっかりと準備をしてから出ていくんですね。
そう考えると、単に「衰えた母はお役目御免で、若い娘たちに追い出される」と言う厳しい処置ではなく、
「家を建て、子を育て……、ひと段落した母の【第二の人生】への旅立ち」とも受け取れるでしょうか。
分蜂は風の無い晴れた日の10時頃から15時位が最適だと言われています。
あの日…11日の日中は、生暖かいような陽気。雨こそ降りませんでしたが曇天模様で、風もだんだんと強まってきました。(夕方からは一時的に風雨に)
旅立ちとして必ずしも最適とは言えなかったかも知れません。
巣立ってはみたものの…、途中で疲れてしまい、休憩しようにも適度な条件の場所が見つからず、ついに高田馬場の宝くじ売り場に至ったという事なのでしょうか……。
分蜂しているミツバチたちは比較的穏やかで攻撃的ではないらしいです。今回の休憩も一時的なもので、新天地を見つけたら移動していきます。
新たな活躍の場を求めての旅立ち……古い女王蜂が休憩をしているところを襲ったのが害虫スプレーによる「駆除」でした。
■人とハチの共存を考える
……何だか可愛そうにも思えてきました。
実際、ネット上でも今回の対応を非難するコメントが散見されます。
ただの休憩なんだから、放っておけばいつか去るのに殺してしまうなんて……と。
しかし、その非難は「現場を知らない」から言えることです。
あの現場に行った者なら分かると思いますが、場所は高田馬場駅に向かう交通量の激しい場所。
宝くじ売り場前には常に人が行きかっています。
あの場所に突然1000匹のミツバチたちが現れれば、誰でも不安や不快を飛び越え、恐怖を感じると思います。
巣を作るのではないか…。刺されるのではないか…。
5月11日のあの日、高田馬場…。
人が日常生活・経済活動を営む上で、あの時の処置は仕方のないことであると考えます。
↑植栽の植わる白い花壇の壁面に1000匹…。これでは流石に恐怖を感じます。宝くじを買いに行けません!
東京に住む私たちにとって、すっかり「人とハチ」との関係が遠退いてしまっています。
都心におけるハチの立ち位置は「害虫」として「駆除」する対象に…。
しかし、2006年銀座からスタートした「銀座ミツバチプロジェクト」が地域活性として注目され、その後自由が丘・江古田・日本橋・中延など都心各地で盛んにハチの育成が行われていきました。
もはや銀座は年間1トンを超えるハチミツを生産する地域にまで発展しております。
当然、ミツバチの数も増え、その中で分蜂が行われる機会も発生していきます。
適切に分蜂を管理する人工分蜂の手法もありますが、中には「私の人生は私が決めるのよ!」と独立心の強い女王蜂が、人の管理をすり抜けて旅立つこともあるかもしれません。
そうした時、ミツバチの生態や対処の仕方が分からなければ、再び駆除と言う選択肢を選んでしまうかもしれません。
ミツバチは人間よりも遥か古代から生息して、あらゆる植物の受粉を助ける重要な存在でした。その大切な役割は今も変わることはありません。
都心における【太古の昔からの自然の営み】を復活させることは大変意義深いことだと考えます。
その上で、今回の高田馬場で起きた、ある意味「悲劇」は、駆除と言う結末で終わらせることなく、今後は適切な方法による保護によって、養蜂を行う団体にその後の対処を譲るような流れが出来ればと考えます。
人とハチの共存に向けた取り組み。
ハチが生きる上で行う【自然の営み】を遮ることなく、私たちの営みとの共存の道を模索することが、 植物の繁栄と、私たち人類の生活に更なる豊かさを与えてくれることでしょう。
高田馬場の一画で、
ふと……そう考えさせられた、
ある春の日の小さな出来事でした。